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しょーとしょーと1
「ランダム液晶」
「その、メニュー開いた時のアイコンを押せば撮れるから」
「ここ?」
「そう」
昨日買った後、分厚い説明書に四苦八苦しながら設定しておいたシャッター音が鳴る。はじめに高音でスターターの音が聞こえて、次にドルル、と低音で唸るバイクのエンジン音を聞く。しかめっ面になって渡してきた画面に納められたのは、窓から見える夕焼けの町並みだった。
「なにこの音」
「エンジン音。かっこいいだろ」
「かっこよくないし」
うつされた夕闇の街はきれいな橙色にそまって、普段何とも思わない電信柱にさえちょっとした美しさを感じる。たかが携帯電話のカメラのくせに、と僕は思う。振り向くと、当の撮った本人はあきれた表情で僕を見ていた。夕焼けの逆光で焼けてもいない肌が小麦色に見える。
「そうかな」
「おかしいって、カメラのシャッター音なのに」
「でも、初期設定にはいろんな音が入ってるじゃん。犬の鳴き声とか、黒電話のベルとか」
「だからって、カメラのシャッター音をバイクにするのはおかしいって」
「えー、好きなんだけどな」
車輪が錆びついているのか、進んで行くたびにきしむ音が耳に聞こえる。使い続けてきた車輪だから古びるのも仕方がない。家に帰ったら油をさしておくべきかもしれない。